「シニア百山」の選定基準などについて                       
                                   深田クラブ「シニア百山」選定委員会
※ 本記事は会報73号(2010年12月発行)に掲載された  「シニア百山」発表にあたって を一部抜粋したものである。シニア百山のホームページ掲載にあたり、選定基準に係る部分を記載した。


・・・当クラブも、設立三十五周年を迎えることとなった。そしてそれに向けて、中高年や熟年者でも無理なく登れて、しかも種々の魅力を兼ね備えた山々を、新たに百山選出しよう、という企画が持ち上がった。体力的負担が少なく、危険や大きな困難を伴わずに登れる山、一言で言えば、シニア登山者向けの山といってよい。その山々を登ることによって、或いは登ろうという意欲を起こすことによって、熟年者を元気付けようという試みである。勿論その中には我々自身も含まれており、当クラブの活性化をも意図した企画であった。

 しかし、もとより山が訪れる者の老若を区別する訳もなく、シニア向けの山という、ただ、それだけでは、誠に漠とした命題である。体力の衰えた熟年者は、この程度のレベルの楽な山を登っていれば良い、というのでは、まったく意味を為さない。

・・・命題を受けて、八名の者が選定委員として選任された。・・・その委員会兼作業部会が最初に会合を行ったのは、平成二十年九月のことである。そして二年余の歳月を要して、この程ようやく成案をみた。
・・・与えられた命題である「シニア登山者向けの山を選ぶ」ことに、絶対的な基準がある筈もなく、かなり幅広く間口を広げる事こそが、多くの良い山を選出することになろう、との判断に基づいて、以下の選出基準を策定した。

 会員から候補の山を募集する際に基準とした要件

@登山道を含め自然が豊かであること
 (観光化著しい山は極力排除し、「自然純度」「美しい」「静か」などをキーワードに、登山の対象として本来好ま しいと思われる自然環境を保持している山であること。)
A原則として標高五百米以上であること
 (あくまでも平地や丘陵とは異なる、登行の対象としての「高さ」にはこだわるが、それ以上の標高の競い合い は、求めない。五百米以下であっても、日本百名山で筑波山が選ばれたような柔軟性は残しておく。)
B登下降に要する時間は、原則として最低一時間以上、最高五時間以内とする。
 (乗物だけで山頂に達するような山、一方で多くの体力を要する山、危険を伴う山を排除する。山小屋等山中 泊が必須の山については、個別に判断する。)
C深田百名山、日本山岳会選定の三百名山に選定されている山、及び荒沢岳(二百名山)を除く
D推薦理由としてその山の持つ魅力を明示すること。

 魅力別項目と例示
A 長寿に関連がある山
   A―1 祝賀に向いた名前の山     
   A―2 めでたい名前の山       
   A―3 長寿のイメージの山      
B 信仰に関連がある山          
C 伝承・歴史・文学などに関連がある山
   C―1 伝承のある山          
   C―2 歴史の山           
   C―3 詩歌・小説ゆかりの山     
   C―4 名峠を持つ山         
D 展望のよい名山
   D―1 広闊な展望の山        
   D―2 名山のビューポイントを持つ山 
E 自然美の豊かな山
   E―1 花の見事な山         
   E―2 森林の見事な山        
   E―3 湿原を持つ山         
F 一等三角点のある山          
G 名湯を楽しめる山          
H ミニ縦走を楽しめる山        
I 島の山                 
J 富士に似た山             
K その他(魅力の種類を明示する。)

 上記要件については、最終選定まで選考の基準とした。

 従って会員の推薦ではあっても、はじめから明らかに上記要件に合致しない山(例―技術的体力的に難易度の高い山や、日本三百名山と重複する山等)は除外した。
 しかし、唯一例外として、標高についてのみは、会員からの推薦のあった山に限り、五百米以下の山も選考の範囲内とした。

 上記要件以外に選定の指標とした項目は、以下の通りである。

1.会員から推薦のあった山を最優先して、その範囲内から極力選出した。
 応募された会員の意思を尊重して、応募者全員最低一山は、採用した。
 従って、一山のみ推薦された場合は、その山が選出された。

2.最終選考に至って、地域的に偏りが見られたので、バランスに配慮した。
 その為空白が著しい地域については、選定メンバーの合意により、補充の山を少数選出した。
  その結果、最初から意図した訳ではなかったが、最終的には、大阪府、愛媛県を除き、ほぼ全都道府県を網 羅した地域に配置された選出結果となった。

3.甲乙つけがたい山の比較においては、一般に喧伝された山よりも、いわゆる非流行の山、その魅力がまだ 一般に知られていないような山に、重きを置いた。
 その一方では、マニアックな山々ばかりを選出するのではなく、ポピュラーではあっても、その魅力を今一度再 確認してみたい山をも重視した。
 また、年配の登山者に向く山を強く意識した結果、登山を志した人の多くがその手始めに(或は若き日に)競っ て目指したであろう山(大半がいわゆる中級山岳)については、良い山ではあっても、今回の選定においては、 大半が選に漏れる厳しい評価となった。

4.評価が分かれた場合は、選定メンバーが実際に登った印象度を突き詰めて議論した。(改めて登り直した山 もある。)
 それでも評価が定まらない場合は、一人の思い入れよりも、むしろ否定意見の方を採用した。
 従って最終的にメンバー全員の合意がなかった山は、選から漏れる結果となった。

5.実際の登山にあたってのアプローチについては、議論の対象外とした。
 その為、結果的には公共の交通機関によるアプローチが困難で、マイカー等に頼らざるを得ない山が多くなっ た。
 また、年配者向きという趣旨から、低山が多く選出された為、地域によってはその魅力の大半が、季節的に偏 りがある場合がある。
  (盛夏には向かない等、また反対に、冬季には困難という山もある。)

 最終選考を終えて

  本企画の大前提でもある「年配者でも無理なく登れる山、シニア登山者向きの山を選定する」ということから、登頂行為そのものの難易度は、当然ながら高くないレベルにある山々を選出した。しかし、それは必ずしも登山が容易であることを意味してはいない。登山の初心者でも容易に登れる、準備もなく気楽に取りつける山々、と言うわけではない。

  最終的に選出された山の中には、そうした家族連れで楽しまれているような、ポピュラーな山も一部にはあるが、一方で、登山者の少ない山、非流行の山、僻地にある山等も少なくない。しっかりとした準備、地域の確認、念入りな地図読みを行った後に初めて取りつけるような、いわゆるベテラン向きの山も数多い。

  観光地化著しい山は、極力排除したが、一方では、それを承知で敢えて採用した山もある。例えば東京近郊の高尾山等がそれである。この山は四季折々いつ行っても老若男女、高齢者から幼児まで多くの人が訪れ、本来登山とは無縁と思われる人も多く見られ、良く整備された遊歩道は簡易舗装が施され、山頂はいつも賑やかな歓声で溢れかえっている。一見自然度からは程遠いと思われるが、しかしこの山は一歩視点を変えれば、限りなく豊かなものを有している。標高六百米に満たないこの小さな山は、その懐に日本一多い植物種を有している。正式に観察、確認された高等植物の種数だけでも千五百九十六種、それほどの植物が見られる山は、日本中どこを探してもない。小学校の遠足で登ったという人も多かろう。しかしそうした秘められた魅力を、我々は当時知らなかった。こういう山を、齢を重ねた後、再び訪れる事が出来るのは、何にも増して楽しいことである。
  つまり、年配者向きの山、高齢者向きの山、ということは、そのまま相当な登山経験を有する登山者の感性にも耐えられる、「高い魅力を有している山、味わいの深い山」ということに他ならない。

  今回選定された百山を一覧すると、地域的にも広範囲に渡り、多種多様な魅力を秘めた山々がちりばめられている。ちなみに、この百山を全山完登した者は、選定作業にあたった委員全員のキャリアをもってしても、皆無だった。おそらく当クラブの会員全てに問うても、全山登頂者は、未だ一人もいないのではなかろうか、

  そういう意味で多くの示唆に富んだ山々を網羅したことから、これまでの名山選定とは一味違う選定が出来たものと自負しているが、今後は、全国の登山愛好者の鑑賞や批判にも、耐えていかなければならないだろう。
・・・
                                    深田クラブ「シニア百山」選定委員会
                                            委員長 西田 誠之 記 
     平成二十二年盛夏