「深田久弥の研究」が    
ライフワークの高辻さん

 *インタビュアー:会報担当 渡辺恵美子さん
     (本内容は会報61号より)

御茶ノ水の喫茶店にて
  
高辻さんの作品
 高辻さんに初めてお会いしたのは、小林会長の山荘で行われた懇親会の時。「これからの深田クラブはどうあるべきか」をめぐって喧々誇々意見交換された中で、静かに耳を傾け時折一言ニ言、言葉を発しでいたのが高辻さん。いつかその胸の内をお伺いしたいと思っていましたが、はからずも、この全画にご登場くださることになり、願いのかなった私はドキドキです。

Q 今日は遠いところ新潟からおいでいただきありがとうございます。また、いつも会報に原稿をお寄せくださって、編集部一同とても感謝しています。
A 深田クラブに入会した時から、会報には原稿を書こうと、思っていたんですよ。というのは、地方会員にとって、それが、唯一中央と接触する手段だと思えましたから。
Q 原稿はいつ頃書くんですか? 夜遅くですか?
A 夜は書きません。夜書くと感情が入りすぎて駄目なんですよ。朝、起きて読んでみるとけずる所ばかり目について・・。だから明るい時書きます。

Q 高辻さんの原稿は内容的にも形式的にもきちんとしているので、文句のつけようがないのですが、書くための資料はどのように整理されているんですか?
A 玄関のすぐ横の三畳間を資料置場にしてるんですが、しばしば他の室にはみだしちゃうんですよ。本箱に納まらない本は積み上げてあるので、それはちょっと捜し難いですね。図書館で借りる方法もありますが、そんなことで時間を取られたくない。やはり手元にないと不便です。

Q 資料代だけでも大変じゃないですか?
A 私は賭けごともしないし、やれる範囲で時問をかけてやってきましたから。
Q 小遣いで購入されていたんですか?
A 勿論です。たとえば山へ10回行くのを5回にして、半分を資料代にするとか・・・。小遣いの中で収まるようにしてきました。
Q 小遣いでは間に合わなくて奥様に前借りしたようなことはありませんでしたか?
A そんなことは一度もありません。

Q それはすごい。きちんとした方だとは思っていましたが、想像以上です。ところで、何年にもわたって苦労して収集された資料の将来的な保存方法などについてはお考えになってますか?
A つらつら考えたりするのですが、まだ急ぐ必要もないと思うので、いずれじっくり考えたい。
Q そうですね。一つの手段として息子さんに引き継ぐというようなことはないんですか?
A 息子とは小さい時一緒に山へ行った程度で、その後、山には輿味を示さないので、それは無理です。親としては、山の厳しさを知っているだけに、その点は安心なんだけど。

Q 貴重な資料については高辻さん一代で終りにするのはあまりにも勿体ないですね。ところで、そこまで深田久弥にのめりこんだきっかけは何ですか?
A 深田久弥という名前だけは何となく知っでいたんですよ。もともと本を読むことは好きだったので、本屋にも、しばしば立ち寄りました。ある日たまたま深田さんの著書『山秀水清』(昭和31年10月・朋文堂刊)を手に取って読みました。それがきっかけです。高校一年生の時かな。

Q その本のどこにそれほどの魅力があったのですか?
A 読んでいるうちに私と共通点がたくさんあることに気がついたんです。深田さんの気持ちがとても良くわかるんですねー。それに私も深田さんも長男で何か気質も似ているみたいで・・・。深田さんは一高、東大と進んだエリートだから私とは違いますが、でも何かのんきそうな所があるじやないですか? 一つの例として、そういう点がとっても似てると思うんですよ。

Q そうですね。エリートといっても、目から鼻に抜けるようなそんな生き方はされなかったんですね。いわゆる世間で言われているエリートは山なんか登っていませんしね。
A あははは(一同笑)そうですよね。
Q 学生時代は山岳部に所属されていたんですか?
A いや、中学、高校は美術部でした。

Q えっ! 美術部?
A そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。小学校の時、同級生の女の子が油絵を描いているのがうらやましくて、中学生になって、美術部に入れば油絵を描けるだろうと・・。
Q そうだったんですか。ちっとも知らなくて。是非、写真の他に絵も掲載させてください。
A 個人的にお見せするのはいいけど、それはちょっと……。

Q でも、高辻さんの知られざる面も紹介したいので是非。
A 植物の絵のカットぐらいなら。人さまにお見せできるようなものではありませんが。
Q その頃は山にも登られていたのですか?
A ええ、たまたま高校の担任の先生が山岳部の顧間で、私の家の近くに下宿されていて、私をかわいがってくれて、部員と一緒に連れていってくれ、合宿も一緒に行ったことがありました。
Q 最後に「深田クラブ」について何か、言って頂けるとうれしいのですが・・・。
A こんなことを言うのもなんですが、以前のように講師をよんで話を聞いたりしたいですね。 
Q そういう企画もあるといいですね。いろいろ楽しいお話を本当にありがとうございました。

 編集部の村瀬さん、並木さんにも同席して頂き、2時半にお茶の水の喫茶店で待ち合わせ、5時近くまであっという間でした。私のつたない筆ではとても高辻さんのお人柄を表わしつくすことはできません。せめてその一端なりを感じてくださったならば、これにまさる喜びはありません。(作成者 渡辺恵美子)